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東京高等裁判所 平成10年(行ケ)172号 判決 1999年5月27日

大阪府大阪市北区大淀北一丁目9番36号

原告

株式会社ヒラカワガイダム

代表者代表取締役

平川晋一

訴訟代理人弁理士

本田紘一

豊田正雄

愛媛県松山市堀江町7番地

被告

三浦工業株式会社

代表者代表取締役

白石省三

訴訟代理人弁理士

福島三雄

野中誠一

主文

特許庁が平成9年審判第13996号事件について平成10年4月13日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第1  原告が求める裁判

主文と同旨の判決

第2  原告の主張

1  特許庁における手続の経緯

被告は、考案の名称を「角型多管式貫流ボイラー」とする実用新案登録第2507407号考案(以下「本件考案」という。)の実用新案権者である。なお、本件考案は、昭和63年10月28日に登録出願され、平成8年5月30日に実用新案権設定の登録がされたものである。

原告は、平成9年8月21日に本件考案の実用新案登録を無効にすることについて審判を請求した。特許庁は、これを平成9年審判第13996号事件として審理した結果、平成10年4月13日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、同年5月11日にその謄本を原告に送達した。

2  本件考案の実用新案登録請求の範囲(別紙図面参照)

複数本の垂直水管1’を1列に整列配置するとともに、隣合う垂直水管1’同士をフィン状部材3で連結して水管壁9を形成し、該水管9を2枚対面させて配置し、該一対の水管壁9、9を構成する各垂直水管1’の上下端を上下のヘッダにそれぞれ連結し、前記一対の水管壁9、9の長手方向の一端部にバーナ2を設けるとともに、他端部に排ガス出口7を設け、前記一対の水管壁9、9と前記上下のヘッダとにより前記バーナ2からの燃焼ガスが実質上直線的に通過するガス通路8を形成し、該ガス通路8内に、前記燃焼ガスの流通を許容する間隔をもって、かつ当該ガス通路8のほぼ全域に亘って多数の垂直水管1を挿設し、該垂直水管1のうち前記水管壁9に対面する垂直水管1を前記水管壁9を構成する垂直水管1’に対して千鳥状に配置し、さらに前記ガス通路8内に挿設した多数の垂直水管1の上下端を前記上下のヘッダにそれぞれ連結することにより矩形状の缶体10を形成し、前記バーナ2と該バーナ2の直前に対面する垂直水管1との距離を垂直水管の直径dの略3倍の長さに等しいかそれよりも小さく設定するとともに、各垂直水管1、1’の相互の間隙を垂直水管の直径dと略等しいかそれ以下に設定してなることを特徴とする角型多管式貫流ボイラー。

3  審決の理由

別紙審決書の理由写しのとおり(審決における甲第3号証の昭和63年特許願第227181号の願書添付の明細書及び図面、すなわち、審決にいう「当初明細書又は図面」を以下「先願明細書」といい、審決における甲第1、2号証、第4ないし第10号証を以下「公知刊行物」という。)

4  審決の取消事由

審決は、本件考案の登録出願の願書の記載には不備はないと誤って判断したのみならず、本件考案と先願明細書ないし公知刊行物記載の技術的事項との対比判断を誤った結果、原告の無効審判請求を退けたものであって、違法であるから、取り消されるべきである。

(1)審決の理由Ι(明細書の記載の適否)の判断の誤り

本件考案は、公知の角型多管式貫流ボイラーにおいて、「バーナ2と該バーナ2の直前に対面する垂直水管1との距離を垂直水管の直径dの略3倍の長さに等しいかそれよりも小さく設定する」(以下「数値限定<1>」という。)とともに、「各垂直水管1、1’の相互の間隙を垂直水管の直径dと略等しいかそれ以下に設定してなる」(以下「数値限定<2>」という。)ことのみを特徴とするものである。したがって、本件考案の新規性ないし進歩性が肯定されるためには、明細書において数値限定<1>あるいは数値限定<2>の根拠が明確にされていなければならないことは当然である。

しかるに、本件考案に係る平成7年5月29日付手続補正書添付の明細書(以下「本件明細書」という。)の考案の詳細な説明には、数値限定<1>あるいは数値限定<2>の根拠は何ら記載されていない。

この点について、審決は、本件明細書の記載を引用(審決9頁15行ないし14頁10行)したうえ、それを審決14頁12行ないし15頁15行のとおり要約している。

しかしながら、そこに要約されている事項は、本件考案ないしその実施例が奏する作用効果であって、数値限定<1>あるいは数値限定<2>の根拠を明らかにするものではない。

なお、審決は、本件明細書の「バーナ2と、この直前に位置する第1の水管列Aとの間隙は、所定距離、例えば、垂直水管1の直径dの略3倍に等しいか、それ以下に設定してある。」(5頁27行ないし29行)との記載について、「何ら意味のない単なる例示的な数値の記載であると解することはできず」、数値限定<1>は「この実施例に限定して記載しているもの」と説示しているが、この説示は、まさしく、数値限定<1>が単なる設計事項にすぎないことを明らかにしたものにほかならない。

(2)審決の理由Ⅱ(先願明細書記載の発明との対比)の判断の誤り

審決は、先願明細書には数値限定<1>が記載されていないことを理由として、本件考案は新規性を有する旨判断している。

しかしながら、本件考案が要件とする数値限定<1>は、前記のように、根拠が不明の無意味なものであるから、本件考案と先願明細書記載の発明は、同一の技術的思想である。

また、仮に数値限定<1>が意味を有するとしても、先願明細書の「バーナの特性によっては燃焼をより円滑に行なわせるために、バーナヘッド近傍での収熱水管を一部分省いて空間を作るようにして、空気過剰燃焼、稀薄燃焼や燃料過剰の還元燃焼を同一燃焼室断面内でローカルに生ぜしめてもよい。」(11頁8行ないし13行)との記載は、バーナとそれに対面する垂直水管との距離を垂直水管の直径の略3倍「よりも小さく設定する」ことを開示するものであるから、本件考案と先願明細書記載の発明は、実質的に同一の技術的思想というべきであって、理由Ⅱに関する審決の判断は誤りである。

(3)審決の理由Ⅲ(公知刊行物記載の技術的事項との対比)の判断の誤り

審決は、公知刊行物には数値限定<1>及び数値限定<2>が記載されていないことを理由として、本件考案は進歩性を有する旨判断している。

しかしながら、本件考案が要件とする数値限定<1>及び数値限定<2>は、前記のように、根拠が不明の無意味なものであるから、理由Ⅲに関する審決の判断も誤りである。

第3  被告の主張

原告の主張1ないし3は認めるが、4(審決の取消事由)は争う。審決の認定判断は正当であって、これを取り消すべき理由はない。

1  審決の理由Ιの判断について

原告は、本件考案の新規性ないし進歩性が肯定されるためには明細書において数値限定<1>あるいは数値限定<2>の根拠が明確にされていなければならないところ、本件明細書の考案の詳細な説明には数値限定<1>あるいは数値限定<2>の根拠は何ら記載されていない旨主張する。

しかしながら、本件明細書の3頁18行ないし26行及び6頁22行ないし7頁14行には、本件考案が、数値限定<1>及び数値限定<2>を採用したことによって、(他の要件と相俟って)燃焼を効果的にし、広い燃焼室を不要とし、有害排気物の発生を抑制するとの顕著な作用効果を奏することが明確に記載されている。そして、考案の詳細な説明は、当業者がその実施をすることができる程度に記載すれば足りるのであって、本件考案の数値限定<1>あるいは数値限定<2>の根拠を学問的に明らかにするまでの必要はないから、原告の上記主張は失当である。

この点について、原告は、本件明細書の「バーナ2と、この直前に位置する第1の水管列Aとの間隙は、所定距離、例えば、垂直水管1の直径dの略3倍に等しいか、それ以下に設定してある。」との記載に関する審決の説示は、数値限定<1>が単なる設計事項にすぎないことを明らかにしたものである旨主張する。しかしながら、この本件明細書の上記記載は、バーナとその直前に対面する垂直水管との距離は「垂直水管1の直径dの略3倍」を越えても相応の効果が得られるが、数値限定<1>の範囲ならば、より顕著な効果を得られることを明らかにしたものであるから、数値限定<1>は「実施例に限定して記載しているもの」とした審決の説示に誤りはない。

2  審決の理由Ⅱの判断について

原告は、数値限定<1>は根拠が不明の無意味なものであるから、本件考案と先願明細書記載の発明は同一の技術的思想である旨主張する。

しかしながら、本件明細書において数値限定<1>の根拠が明らかにされていることは前記のとおりであるから、原告の上記主張は失当である。

3  審決の理由Ⅲの判断について

原告は、数値限定<1>及び数値限定<2>は根拠が不明の無意味なものであるから、本件考案は進歩性を有するとした審決の判断は誤りである旨主張する。

しかしながら、本件明細書において数値限定<1>の根拠が明らかにされていることは前記のとおりであるから、原告の上記主張も失当である。

理由

第1  原告の主張1(特許庁における手続の経緯)、2(本件考案の実用新案登録請求の範囲)及び3(審決の理由)は、被告も認めるところである。

第2  甲第2号証(本件明細書)によれば、本件考案の概要は次のとおりと認められる(別紙図面参照)。

1  技術的課題(目的)

多数の水管を平行に配置し、この水管群の側方に燃焼室を配置する角型缶構造をベースにした多管式貫流ボイラーは公知であって、この構造における燃焼ガスは、水管群に対して交差方向に通過してゆく(2頁1行ないし5行)。

この角型缶構造のボイラーは、バーナの直前に一定の容積の燃焼室を必要とするので、缶体の容積が増大するうえ、燃焼室内の温度が理論燃焼温度近くまで上昇するので、有害排気物であるNOx(特にサーマルNOx)の発生が助長され、また、CO2が熱解離して有害排気物であるCOを生成するという欠点がある(2頁8行ないし14行、22行ないし27行)。

本件考案の目的は、従来技術の上記のような欠点を解消したボイラーを創案することである。

2  構成

上記の目的を達成するために、本件考案は、その実用新案登録請求の範囲記載の構成を採用したものである(1頁5行ないし19行)。

3  作用効果

本件考案によれば、

a  燃焼室が不要であるため、矩形薄型のボイラーを実現できる、

b  各垂直水管によって燃焼ガスの温度を比較的低い範囲に制御できるため、有害排気物の発生を抑えることができる、

c  多数のボイラーを密着して設置できる

との作用効果を得ることが可能である(8頁5行ないし17行)。

第3  そこで、原告主張の審決取消事由の当否について検討する。

本件考案が対象とする角型多管式貫流ボイラーが本件考案の登録出願前に公知であって、数値限定<1>及び数値限定<2>のみを特徴とするものであることは、本件考案と先願明細書記載の発明とを対比して、先願明細書又は図面には数値限定<1>が記載されていないとして本件考案の新規性を肯定し、また、本件考案と公知刊行物記載の技術的事項とを対比して、公知刊行物には数値限定<1>及び数値限定<2>が記載されていないとして本件考案の進歩性を肯定した審決の説示からも明らかである。したがって、本件考案の新規性ないし進歩性が肯定されるためには、明細書において、数値限定<1>あるいは数値限定<2>の根拠(具体的には、数値限定<1>あるいは数値限定<2>を採用することによってのみ得られる顕著な作用効果)が明確にされなければならない旨の原告の主張は、正当である。

この点について、被告は、実用新案登録願書の考案の詳細な説明は、当業者がその実施をすることができる程度に記載すれば足りるのであって、本件考案の数値限定<1>あるいは及び数値限定<2>の根拠を学問的に明らかにするまでの必要はない旨主張する。しかしながら、本件において問われているのは、本件考案が自然法則を利用した技術的思想の創作であるか否かであって、当業者が本件考案を実施できるか否かではないから、被告の上記主張は失当といわざるをえない。

そして、甲第2号証によれば、本件明細書には、審決がその9頁15行ないし14頁10行において援用する記載が存在することが認められる。しかしながら、これらの記載が、本件考案ないしその実施例が奏する作用効果を抽象的に述べているにすぎないことは明らかであって、数値限定<1>あるいは数値限定<2>の根拠(すなわち、数値限定<1>あるいは数値限定<2>を採用することによってのみ得られる顕著な作用効果)については何ら言及されていないといわざるをえない。

付言するならば、バーナとその直前に位置する垂直水管の距離(数値限定<1>)及び各垂直水管の間隙(数値限定<2>)は、缶体の大きさ、バーナの性能、垂直水管の数等の具体的な諸条件を総合考慮してこそ的確に決定できる、設計事項であると考えられる(本件明細書に実施例の説明として記載されている「バーナ2と、この直前に位置する第1の水管列Aとの間隙は、所定距離、例えば、垂直水管1の直径dの略3倍に等しいか、それ以下に設定してある。」(5頁27行ないし29行)との記載は、数値限定<1>が単なる設計事項であることを明らかにしているものと解さざるをえない。)。したがって、本件考案について実用新案権を設定することは、当業者に許されるべき設計事項の相当の部分を実用新案権の権利範囲に取り込んでしまう結果となり、許されないものというべきである。現に、甲第5号証によれば、先願明細書には「バーナの特性によっては燃焼をより円滑に行なわせるために、バーナヘッド近傍での収熱水管を一部分省いて空間を作るようにして、空気過剰燃焼、希薄燃焼や燃料過剰の還元燃焼を同一燃焼室断面内でローカルに生ぜしめてもよい。」(11頁8行ないし13行)と記載されていることが認められるが、ここに記載されている「バーナヘッド近傍での(中略)空間を作る」の構成が、数値限定<1>を満足することはいうまでもないところである。

技術的に考えても、公知の角型多管式貫流ボイラーについて、缶体の大きさ、バーナの性能、垂直水管の数等の具体的な諸条件を一切捨象して、単に、バーナとこれに対面する垂直水管との距離を「垂直水管の直径dの略3倍の長さに等しいかそれよりも小さく設定」し、かつ、各垂直水管の間隙を「垂直水管の直径dと略等しいかそれ以下に設定」することにいかなる意味があるのか、理解することは困難である。とりわけ、数値限定<1>は、バーナとこれに対面する垂直水管との距離として、垂直水管の直径dの略3倍の距離から、無限に零に近い距離をクレームするものであるが、このクレームが極めて広いものであることは、本件考案の実施例を図示している別紙図面の記載からも十分に窺うことができる。しかるに、本件明細書の記載は、得られる作用効果からみて、

a  「垂直水管の直径dの略3倍」以下の距離と、「垂直水管の直径dの略3倍」を越える距離との間に有意の差異があること

b  「垂直水管の直径dの略3倍の距離」と、無限に零に近い距離とが等価でありうること

について、何ら明らかにするところがないのである。

以上のとおりであるから、原告の無効審判請求を退けた審決の判断は、原告のその余の主張の当否を論ずるまでもなく誤りであり、審決は違法なものとして取消しを免れない。

第4  よって、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は、正当であるから、これを認容することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。

(口頭弁論終結日 平成11年4月27日)

(裁判長裁判官 清永利亮 裁判官 春日民雄 裁判官 宍戸充)

別紙図面

<省略>

1、1’……垂直水管

2……バーナ

3……フィン状部材

7……排ガス出口

8……ガス通路

9……水管壁

10……缶体

これに対して、本件請求人、株式会社ヒラカワガイダムは、甲第1号証(中條義守著「燃料の節約と汽罐の保全」昭和29年6月20日、燃料及燃焼社発行、第260~261頁)、甲第2号証(斉藤勇外1名著「汽罐取扱いの実際」昭和30年11月15日、産業図書株式会社発行、第60頁)、甲第3号証(特公平4-70523号公報(特願昭63-227181号))、甲第4号証(日本バーナ研究会編「図解燃焼技術用語辞典」昭和57年8月30日、日刊工業新聞社発行、第224頁)、甲第5号証(日本機械学会編「機械工学便覧」昭和62年4月15日、社団法人日本機械学会発行、第A6-75頁右欄第9~12行及び第B6-21頁第14行と第B6-21頁に掲載の図55、図56)、甲第6号証(日本ボイラ協会編「改訂第3版ボイラ便覧」昭和48年12月25日、丸善株式会社発行、第315頁下から第3~末行、第317頁第4~9行、第318頁下から第4~3行、第320頁下から第5~4行、第315頁に掲載の図10.16(d)及び第318頁に掲載の図10.19)、甲第7号証(実開昭53-64801号公報)、甲第8号証(実公昭57-19521号公報)、甲第9号証(実公昭39-1003号公報)、及び、甲第10号証(大阪ガス「ガスボイラーテクニカルレポートNo.15」、昭和63年10月27日発行、「多缶設置専用ガススチームユニットシステム」)を証拠方法として提出して、「本件登録実用新案の明細書及び図面は、実用新案法第5条の規定に違反し、また、例え同規定に違反しないとしても、本件登録実用新案の請求項1に係る考案は、その先願に係る特許出願であって出願公開されたものの願書に最初に添付された明細書又は図面に記載された甲1号証(審判請求書第5頁第21行~第10頁第17行の記載からみて、甲3号証の誤記と解する。)の発明と実質的に同一であるので、実用新案第3条の2(実用新案法第3条の2の誤記と解する。)の規定により実用新案登録を受けることができないものである。また、本件登録実用新案は、甲第10号証刊行物に記載されたもの及び甲各号証に示される周知の技術的事項から、当業者が必要に応じて適宜極めて容易に考案をすることができたものであるので、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができないものである。」(審判請求書第12頁第28行~第13頁第5行)と主張している。

Ⅰ.そこで、先ず、「本件登録実用新案の明細書及び図面は、実用新案法第5条の規定に違反」するという請求人の主張について検討する。

請求人は、審判請求書において、「只単に『数値限定』を付しただけにある場合には、既に判例がある」(第8頁第15~16行)として、『磁気記録材料事件(東京高判昭37.6.26)』(昭和37年6月26日言渡、東京高裁、昭和34年(行ナ)第6号判決のことと解する。)の判決理由の一部を抜粋引用し(第8頁第18~23行の記載)、「数値限定だけで進歩性が認められるには、特許権付与の条件として根拠とする説明やそれ相応の証明が必要となるのである。」(第8頁第23~25行)とする本件請求人自身の見解を記述したうえで、概ね、「実用新案登録請求の範囲には、『(ト)前記バーナ(2)と該バーナ(2)の直前に対面する垂直水管(1)との距離を垂直水管(1)の直径dのほぼ3倍の長さに等しいか、それよりも小さく設定する』(請求人は、実用新案登録請求の範囲の請求項1に記載された事項を(イ)から(リ)に分節し、当該事項を構成要件(ト)としている。)と記載されているものの、明細書及び図面の何処にも、そのように『バーナ(2)と該バーナ(2)の直前に対面する垂直水管(1)』とを離して置かねばならなかったのか説明がなく、また数値限定した理由や根拠が記載されていない。法的には、実用新案の構成要件は、明細書の記載によって支持されねばならないところ、この離間の説明と数値限定については、特に『考案の詳細な説明』の項に何も説明がないのである。只、『考案の詳細な説明』の項に唯一『即ち、前記バーナ2と、この直前に位置する第1の水管列Aとの間隙は、所定距離、例えば、垂直水管1の直径dの略3倍に等しいか、それ以下に設定してある』(公報3頁右欄11行から13行)と記載があるがそれ以外になく、なぜ、バーナから垂直水管を離さねばならないか、その離間の構成の意味、また、そのような数値をもって限定したのかについて、只設定したとあるのみであり、全く説明がされてなく、また、他の何れにも説明するとこがない。」(第8頁第26行~第9頁第5行)、「『考案の詳細な説明』の項では、その数値をただ単に例示的に記載にすぎない。」(第9頁第13行)、「例示とは、必ずしも、そうでなくてもよいという、文字どおり、相対的な意味を有するものであって、その範囲に絶対的な要件として縛られるものではないと解される。」(第9頁第14~15行)、「本件登録実用新案の構成要件(ト)は、本件登録実用新案のもたらす『効果』との関連について、その構成要件である離間の構成と数値限定が如何なる目的、作用や役割を果たすのか、明細書及び図面の記載をみても、…上記の記載しかなく不明という外はない。」(第9頁第19~22行)と述べて、「本来、『実用新案登録請求の範囲』の項に記載された構成は、その構成の裹付けとなる説明が、『考の詳細な説明』の項に当然記載されて、明細書の記載によって当然支持されていなければならないところ、その点を欠くことは、当業者が容易にその実施をすることができる程度に、その考案の目的、構成、効果が記載してあるとは認められないものであ」る(第9頁第26~30行)と主張すると共に、「この数値限定は、何の理由や根拠を有するものではないので、本件登録実用新案の必須の要件でもなく、特徴のない無意味且つ重要でない限定と言わざるをえない。よって、この数値限定を付した構成は、本件登録実用新案の構成に欠くことができない事項を、その構成要件としているとも認められない」(第9頁第31~34行)と主張している。

そこで、本件実用新案登録第2507407号の登録明細書(平成7年5月29日付け手続補正により全文訂正されている。)及び図面をみてみると、そこには、「複数の垂直水管からなる一対の水管壁と上下のヘッダとによりガス通路を形成し、このガス通路内のほぼ全域に亘って多数の垂直水管を挿設し、この垂直水管を前記水管壁を構成する垂直水管に対して千鳥状に配置するとともに、前記各垂直水管間の隙間並びにバーナと垂直水管との距離を調整して缶体を構成し、バーナからの燃焼ガスを一対の水管壁間に挿設配置した垂直水管群の隙間に導いてこの隙間空間で効果的に燃焼させることができるため、独立した広い空間部を必要とする燃焼室がなくなり、また、この燃焼ガスは、バーナの直前に対面する垂直水管を含めた前記垂直水管群によって温度制御されるため、有害燃暁廃棄物の発生が抑制される。」(第3頁第18~26行)こと、「ガス通路8内に挿設された各垂直水管1のうち前記水管壁9に対面する垂直水管1は、図示するように、前記両水管壁9、9を構成する垂直水管1’、1’、…とそれぞれ千鳥配列となるように配置してある。」(第5頁第7~9行)こと、「水管壁9、9における垂直水管1’同士の間隙、各水管列A、B、…における垂直水管1同士の間隙、水管列A、B、…の各列の間隙並びに、水管壁9、9の垂直水管1’と各水管列A、B、…の垂直水管1の隣合うもの同士の間隙を、垂直水管1(或いは、垂直水管1’)の直径dと略等しいか、それ以下に設定する。」(第5頁第16~20行)こと、「各垂直水管1の相互の間隔は、前記燃焼ガスと各垂直水管1との対流伝熱効率を向上きせるためには、なるべく狭く設定するのが好ましいが、極端に狭くすると、各垂直水管1周りのガス流速が速くなり過ぎて圧力損出が大きくなり、逆に極端に広くすると、ガス流速が遅くなって前記対流伝熱効率が低下し、さらに挿設する垂直水管1の本数も減少せざるを得ず、これは伝熱面積が減少することとなり、伝熱量自体も減少することとなる。従って、この点において、各垂直水管1の相互の間隔は、第1図に示すように、垂直水管1の直径d以下とする。そして、前記各垂直水管1は、前記間隔を保持して前記ガス通路8のほぼ全域に亘って挿設されている。」(第4頁第23行~第5頁第3行)こと、「ガス通路8内において前記バーナ2と対面する垂直水管1、1は、図示するように、前記バーナ2に比較的近接した位置に配置されており、前記バーナ2とこれに対面する第1の水管列Aの垂直水管1、1との間隔も極めて小さいものとなっている。即ち、前記バーナ2と、この直前に位置する第1の水管列Aとの間隙は、所定距離、例えば、垂直水管1の直径dの略3倍に等しいか、それ以下に設定してある。」(第5頁第23~29行)こと、「バーナ2と第1の水管列A、並びに、水管壁9、9との間隙を上述の如く設定してあるため、バーナ2からの燃焼火炎は、各水管列A、B、…における垂直水管1の隙間を通して、缶体10の長手方向に長く延びることになり、この隙間空間内でも燃焼反応が生じる。この結果、バーナ2から燃焼火炎は、第1の水管列Aから次々と各水管列B、C、…に、また水管壁9、9にも接触し、各垂直水管1、1、…、1’、1’、…に対して上流側のものから順次に伝熱を行うが、この際の火炎温度を例えば1200℃~1300℃程度に低く抑えることができ、サーマルNOxの生成を抑制することができる。さらに燃焼火炎は、各垂直水管1、1、…により各垂直水管1、1、…、1’、1’、…の隙間において渦流となるため、保炎性が向上するとともに、未燃ガスが火炎流に急速に取込まれて完全燃焼が行われ、特にCOは酸化されてCO2となる。また、燃焼反応後の燃焼ガスも、各垂直水管1、1、…並びに水管壁を構成する各垂直水管1’、1’、…に接触しながら缶体10の長手方向に通過するようになり、比較的低い温度範囲に保たれる。従って、CO2のCOへの熱解離が抑制される。即ち、前記の如き缶体構造とすることにより、バーナ2からの燃焼ガスのガス通路8を直線状に比較的長く設定できて、燃焼ガスを缶体10内に比較的低温状態で停留させておくことができ、別個に燃焼室を形成する必要がなくなる。このことは、缶体10がコンバクトになると同時に、燃焼火炎に渦流を与える作用によって有害排気物の低減につながる。」(第6頁第22行~第7頁第14行)こと、「燃焼ガスとは、燃焼反応が光として明確に目視可能な燃焼火炎、目視不可能な燃焼反応中のガスを含んでおり、さらに、燃焼反応後のガスを含む。」(第4頁第18~20行)こと、及び、「ガス通路8内における各垂直水管1の配置密度は、図示するように、各垂直水管1の相互の間隔の点および前記バーナ2とこれに対面する垂直水管1、1との間隔の点から、比較的密な状態で配置されていることになり、このような配置とすることにより、前記両水管壁9、9と前記両ヘッダおよび前記各垂直水管1とにより構成される缶体10について定められた横幅を縮小することができるとともに、缶体10について定められた横幅内により多くの垂直水管1を挿設することができる。」(第6頁第5~11行)ことが記載されている。

この本件登録明細書及び図面の記載によれば、本件考案が、各垂直水管間の隙間並びにバーナと垂直水管との距離を調整し、バーナ2と該バーナ2の直前に対面する垂直水管1との距離を垂直水管の直径dの略3倍の長さに等しいかそれよりも小さく設定するとともに、各垂直水管1、1’の相互の間隙を垂直水管の直径dと略等しいかそれ以下に設定するという事項を有するのは、バーナからの燃焼ガス(燃焼反応が光として明確に目視可能な燃焼火炎、目視不可能な燃焼反応中のガス、及び、燃焼反応後のガスを含む。)のガス通路を垂直水管1の隙間を通して缶体長手方向に直線状に比較的長く設定し、燃焼ガスを缶体内に比較的低温状態で停留させると共に、燃焼火炎に渦流を与え、以て、保炎性を向上し、サーマルNOxの生成とCO2のCOへの熱解離を抑制し、未燃ガスを火炎流に急速に取り込んで完全燃焼させて、特にCOを酸化してCO2とし、有害排気物を低減させるようにすることを達成ために資するためである共に、別個に燃焼室を形成する必要をなくして缶体をコンバクトにし、しかも、ガス通路内における各垂直水管を比較的密な状態でより多くの垂直水管を挿設するようにすることを達成するために資するためであると解することができる。

また、この本件登録明細書及び図面の記載によれば、本件登録明細書の考案の詳細な説明の欄における、バーナ2とこの直前に位置する第1の水管列Aとの間隙を、例えば、垂直水管1の直径dの略3倍に等しいかそれ以下に設定している旨の記載は、バーナ2とこの直前に位置する第1の水管列Aとの間隙についての何ら意味のない単なる例示的な数値の記載であると解することはできず、この記載は、バーナ2とこの直前に位置する第1の水管列Aとの間隙の距離であって、叙上の如き諸事項を達成させようとするために調整して設定する所定距離の実施例を記載したものであると解することができる。

そして、本件登録明細書の実用新案登録請求の範囲の請求項1には、上記の、バーナ2とこの直前に位置する第1の水管列Aとの間隙の所定距離を、この実施例に限定して記載しているものと解することができる。

そうすると、審判請求書における構成要件(ト)についての明細書の記載不備に関する叙上の本件請求人の主張は採用することができず、本件登録実用薪案の明細書及び図面は、実用新案法第5条の規定に違反するものであるとすることはできない。

Ⅱ.次に、「本件登録実用新案の請求項1に係る考案は、その先願に係る特許出願であって出願公開されたものの願書に最初に添付された明細書または図面に記載された甲3号証の発明と実質的に同一であるので、実用新案法第3条の2の規定により実用新案登録を受けることができないものである。」という請求人の主張について検討する。

ところで、上記甲第3号証は、上記甲第3号証の記載からみて、本件実用新案登録に係る考案の出願日(昭和63年10月28日)前の他の特許出願(特願昭63-227181号)であって、当該出願日後に、出願公開(特開平2-272207号公報(平成2年11月7日公開))と出願公告(特公平4-70523号公報(平成4年11月11日公告))がなさされたものの公告公報である。

そして、本件実用新案登録に係る考案の考案者と上記の他の特許出願(特願昭63-227181号)に係る発明の発明者とは同一の者ではなく、また、本件実用新案登録出願の時に本件実用新案登録出願の出願人と上記の他の特許出願(特願昭63-227181号)の出願人とは同一の者ではない。

従って、本件実用新案登録の請求項1に係る考案が、実用新案法第3条の2の規定により実用新案登録を受けることができないものであるか否かを検討するために、本件実用新案登録の請求項1に係る考案と甲3号証に記載の発明とを対比検討するのではなくて、本件実用新案登録の請求項1に係る考案と上記の他の特許出願(特願昭63-227181号)の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下、単に、当初明細書又は図面という。)に記載された発明とを対比検討する。

当初明細書又は図面には、「水管式ボイラとその燃焼方法」が記載されており、この「水管式ボイラとその燃焼方法」に関して、当初明細書又は図面には、「本発明はNOxの生成を抑制しながら、高負荷燃焼を行わせて、局部伝熱面熱負荷を一定値以下に抑えながら、ボイラ火炉部分を著しく小さくし、それによって小型軽量化を図った収熱水管内挿型燃焼室を有する水管式ボイラ並びに該ボイラの燃焼方法を提供する」(第6頁第16行~第7頁第1行)こと、「水管式ボイラにおいて燃料の燃焼を行う燃焼部(バーナ)に連接する単数の燃焼室内に多数の収熱水管を配設することにより火炎温度を抑制して低NOx化を達成し、更に接触伝熱を促進してボイラの燃焼室を極端に小さくしたものである。」(第7頁第4~10行)こと、「本発明の特徴とするところは、単数の燃焼室でもその中に収熱水管群を配設することによって火炎のホットスポットを作らずに接触伝熱を促進して火炎温度を抑制するところにあり、このことがみかけ上の燃焼室熱負荷を著しく高くすることができるとともに低NOx化のために有利に作用する」(第9頁第5~11行)こと、「本発明者等の基礎的研究の結果から収熱水管に火炎をぶっつけても収熱水管の壁面から1mm以内のごく薄い部分では確かに火炎のクエンチング現象(冷却現象)によるCOの発生や未燃焼分が存在するが、収熱水管と収熱水管との間に数10mm程度の隙間を設けることによって、その空間において残存するCOや未燃焼分が燃焼して消滅することが判明した。特に水管後流部の流れの乱れた部分でのCO消滅が著しいことがわかった。これにより収熱水管はむしろ燃焼を促進し、バーナヘッドからCOの消滅する迄の距離(火炎の長さ)は収熱水管がある場合の方がずっと短くなる。この場合収熱水管の配列は流れに対してゴバン目配列より千鳥配列の方がその効果は大きい。」(第10頁第1~15行)こと、「バーナの特性によっては燃焼をより円滑に行わせるために、バーナヘッド近傍での収熱水管を一部省いて空間を作るようにして、空気過剰燃焼、希薄燃焼や燃料過剰の還元燃焼を同一燃焼室断面内でローカルに生じせしめてもよい。またこの収熱水管の配列としては接触伝熱効果を上げるために、収熱水管群中では火炎又は燃焼ガスをある程度早い流速にする必要があり、或いはバーナの燃焼断面熱負荷特性から、収熱水管前面では流速を或程度低下させる必要があるため、水管のピッチ(P)と水管直径(D)の比(P/D)を1.1~2.0にすることが望ましい。P/Dが1.1未満では、水管まわりのガス流速が早くなりすぎて圧力損出が大きくなることや、燃焼に必要な流れ方向に直角な断面積がとれなくなり、燃焼上問題があり、またP/Dが2.0を超過すると、ガス流速が遅くなり、収熱水管の伝熱性能が悪化し、結局燃焼室の小型化ができないということになる。」(第11頁第8行~第12頁第7行)こと、及び、「本発明は燃焼方式を全く変えた単数又は複数の燃焼室の組合わせといずれも収熱水管内挿型燃焼室の採用によって、ボイラから排出されるNOxを低減しながら、当該燃焼室の容積を従来の1/10~1/20程度以下にできて、そのためボイラの大きさを従来の1/2程度以下にすることに成功したもので、ボイラの小型、軽量化が可能となった。しかも従来の炉壁水管においては、伝熱面負荷が不均一で、一部焼損の危険にさらされていたが、本発明の燃焼室内挿型収熱水管では、均一伝熱面負荷で伝熱面負荷の限界値以下に設計することができるため、ボイラの信頼性、安全性が向上する効果を奏する。」(第16頁第1~13行)ことが記載されている。

しかしながら、当初明細書又は図面には、当初明細書又は図面に記載されたものが、本件実用新案登録に係る考案の構成要件である「バーナと該バーナの直前に対面する垂直水管との距離を垂直水管の直径dの略3倍の長さに等しいかそれよりも小さく設定する」という事項を有するものであるとする記載が為されているとは認められない。

そして、本件登録明細書及び図面の記載からみて、本件実用新案登録に係る考案は、この「バーナと該バーナの直前に対面する垂直水管との距離を垂直水管の直径dの略3倍の長さに等しいかそれよりも小さく設定する」という事項と、その請求項1に記載されたその余の構成要件とが相俟って、既にΙで述べた如く、バーナからの燃焼ガス(燃焼反応が光として明確に目視可能な燃焼火炎、目視不可能な燃焼反応中のガス、及び、燃焼反応後のガスを含む。)のガス通路を垂直水管の隙間を通して缶体長手方向に直線状に比較的長く設定し、燃焼ガスを缶体内に比較的低温状態で停留させると共に、燃焼火炎に渦流を与え、以て、保炎性を向上し、サーマルNOxの生成とCO2のCOへの熱解離を抑制し、未燃ガスを火炎流に急速に取り込んで完全燃焼させて、特にCOを酸化してCO2とし、有害排気物を低減させるようにすることを達成せしめようとするものであると解することができるし、また、別個に燃焼室を形成する必要をなくして缶体をコンバクトにし、しかも、ガス通路内における各垂直水管を比較的密な状態でより多くの垂直水管を挿設するようにすることを達成達成せしめようとするものであると解することができる。

そうすると、本件実用新案登録の請求項1に係る考案が当初明細書又は図面に記載された発明と同一であると言うことができず、本件登録実用新案の請求項1に係る考案は実用新案法第3条の2の規定により実用新案登録を受けることができないものであるとすることはできない。

Ⅲ.続いて、「本件登録実用新案は、甲第10号証刊行物に記載されたもの及び甲各号証(甲第3号証と甲第10号証を除いた甲各号証のことと解する。)に示される周知の技術的事項から、当業者が必要に応じて適宜極めて容易に考案をすることができたものであるので、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができないものである。」という請求人の主張について検討する。

上記甲第10号証には、大阪ガスと三浦工業株式会社とで共同開発中の「多缶設置専用ガススチームユニットシステム」に関する記事が記載されており、そこには、その「概要」の項に「薄型貫流スチームボイラーユニットを複数台組合せた構造からなる、省スペース性を追及した台数制御スチームボイラーパック。」であること、及び、「このレポートでは、第1次プロトタイプ機の概要をまとめていますが、実際の商品化は、ユニット単体の能力を見直し、小型ボイラー、簡易ボイラーの2シリーズで、昭和64年秋を目標に開発を進めています。」ということが記載され、その「開発の狙い」の項に「<1>従来の多管設置方式の場合での実質設置スペースを、より小さくすること。<2>今後の環境基準達成に、よりクリーンなガス焚ボイラーが必要とされること。地域のNOx排出基準規制制定に対応した底NOx化。」であることが記載され、その「特長」の項に「<1>元混合方式セラミックバーナを高負荷燃焼させる事により、燃焼室を極限まで小さくしている。<2>水管の直列配置により、扁平薄型形状を可能としている。<3>分散火炎急速拡散燃焼方式により、低NOx化を達成。」であることが記載されると共に、原理図が記載されている。

そして、甲第1号証には、「焔が傳熱面にふれない内に燃焼を完了させること」(第260頁下から第13行)、及び、「(5)焔を汽罐受熱面や炉壁面に直接ふきつけてはならぬ。焔を汽罐受熱面や炉壁面に強くふきつけたならば、罐板又は水管を過熱し、或は炉壁を熔損或はコークス性物を附着し、延いては罐効率が低下し、煤を生成することにもなるだろう。然し此の焔の吹管作用は、第124図に示す如く、焔をして邪魔物のない長い進路を辿らせる様に………斯くして焔が水管や炉壁及び炉床にぶっつからない様にし、………安全と維持上にも、好結果をもたらす筈である。」(第261頁第1~12行)ことが記載されている。

甲第2号証には、「最も近い蒸発管(水管)とは、火炎の先端が衝突することを避けるためなるべく離し、少なくとも1500mmの距離をおく。」(第60頁第14~15行)ことが記載されている。

甲第4号証には、「燃焼反応」について「一般的には可燃物と酸素とが高温で熱と光を伴いながら、自動的に燃焼する酸化反応の一種である。」(第224頁下から第10~9行)ことが記載されている。

甲第5号証には、「4.2.2.燃焼反応a.反応機構(reaction mechanisms of combustion)燃焼に伴う発熱および発光は、燃料と酸化剤の化学反応によるものであり、燃焼は、本来化学反応の一様式である。」(A6-75頁右欄第9~12行)こと、及び、「フィン付き水管式」(B6-21頁右欄第14行)並びに図55、56が記載されている。

甲第6号証には、「さらにフィン付き水管のフィンを溶接してメンブレーン壁(membrane wall)構造にして内部ケーシングも省略した同図(d)に示すような構造にすることもある。」(第315頁下から第3~末行)こと、図10.16「水冷炉壁の構造」、「火炉および本体周壁面に配置した水管は押出しフィン付水管を用いてフィンの先端接目を完全に溶接したメンブレン壁構造にして加圧燃焼が可能にしてある。」(第317頁第4~9行)こと、「燃焼室の水冷壁及び本体の全表面を完全なメンブレン壁構造にしてある」(第320頁下から第5~4行)こと、及び、「ひれ付きの燃焼側壁蒸発管」(第318頁下から第4~3行)並びに図10.19が記載されている。

甲第7号証及び甲第8号証には、水管式ボイラにおいて、水管の上下にヘッダを設けて該水管をっなげて水または蒸気を集める構造が示されている。

甲第9号証には、垂直水管を千鳥状の配列としたものが示されている。

しかしながら、甲第3号証を除いた上記の甲各号証には、そのいずれにも、本件実用新案登録に係る考案の構成要件である「バーナと該バーナの直前に対面する垂直水管との距離を垂直水管の直径dの略3倍の長さに等しいかそれよりも小さく設定するとともに、各垂直水管1、1’の相互の間隙を垂直水管の直径dと略等しいかそれ以下に設定する」という事項の記載が認められない。

そして、本件登録明細書及び図面の記載からみて、本件実用新案登録に係る考案は、この「バーナと該バーナの直前に対面する垂直水管との距離を垂直水管の直径dの略3倍の長さに等しいかそれよりも小さく設定するともに、各垂直水管1、1’の相互の間隙を垂直水管の直径dと略等しいかそれ以下に設定する」という事項と、その請求項1に記載されたその余の構成要件とが相俟って、既にΙ、Ⅱで述べた如く、バーナからの燃焼ガス(燃焼反応が光として明確に目視可能な燃焼火炎、目視不可能な燃焼反応中のガス、及び、燃焼反応後のガスを含む。)のガス通路を垂直水管の隙間を通して缶体長手方向に直線状に比較的長く設定し、燃焼ガスを缶体内に比較的低温状態で停留させると共に、燃焼火炎に渦流を与え、以て、保炎性を向上し、サーマルNOxの生成とCO2のCOへの熱解離を抑制し、未燃ガスを火炎流に急速に取り込んで完全燃焼させて、特にCOを酸化してCO2とし、有害排気物を低減させるようにすることを達成せしめようとするものであると解することができるし、また、別個に燃焼室を形成する必要をなくして缶体をコンパクトにし、しかも、ガス通路内における各垂直水管を比較的密な状態でより多くの垂直水管を挿設するようにすることを達成達成せしめようとするものであると解することができる。

そうすると、本件実用新案登録の請求項1に係る考案が甲第10号証に記載されたもの及び甲第3号証と甲第10号証を除いた上記の甲各号証に示される周知の技術的事項から、当業者が必要に応じて適宜極めて容易に考案をすることができたものであると言うことはできず、本件登録実用新案の請求項1に係る考案は実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができないものであるとすることはできない。

以上の通りであるから、本件請求人の主張する理由及び証拠方法によっては、本件実用新案登録を無効とすることができない。

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